「昭和の犬」(姫野カオルコ)を読んで

こんにちは、あずきなこです。

タイトルにもある読書について書くのをすっかり忘れていました。過去のものから引っ張りつつ、最近読んだもののことも書きたいなと思います。

少し前ですが「昭和の犬」を読んだ感想です。姫野カオルコ著。
第150回直木賞受賞作だそうですので知っている方も多いかもしれませんね。
そもそも第150回って!2014年だよ。乗り遅れるにもほどがある。

主人公兼語り手の「イク」の、滋賀県での小学生時代から上京して働く45年間を書いたお話。
寝起きで顔も洗わずに登校しようとする娘に「化粧が濃い」と激昂する理不尽で奇天烈な父親と、
「不幸な結婚をしてしまった」が口癖の母親の間で、実家を離れることだけを夢に生きていた少女、と言うと非常に暗く重たい話のようですが、そうでもなく。
タイトル通り犬がたくさん出てきます。イクの家で飼っていた犬のほかにも、公園で見つけた野犬、高校に侵入した野良犬、下宿先の飼い犬、等々。
全編を通して父母に対する恨みつらみの描写はありません。たびたび登場する犬猫に甘えたり慰められたり、時には犬に対する態度を通して人から信頼を得たりします。

犬の描写が丁寧で、たぶん本当に犬が好きなんだろうな、と感じました。

耳介は柴や甲斐ほどの大きさだが、キッとした立ち耳ではなく半分立ち、半分垂れている。垂れたほうを、イクはよくひとさし指と親指で挟み、ひらひらしたさわり心地を楽しむ。

私自身犬猫その他動物大好きなので、非常に楽しく読むことができました。
特に好きなシーンが、これ。↓

犬を見たり犬に触れたりすると、ふれた面-手のひらや腕の内側や頬や-から内側に向かって、ふくふくとした気持ちが芽生えてくる。

そうだよね、そうなんだよね、とうなずきながら読みました。
私も道を歩いているときなどに「触らせてくれる犬」に出会うと、その日は一日ふくふくとした温かい気持ちで過ごせます。
決して明るい話ではないけれど、何度も読み返したくなる話でした。
終盤にはイクにとって奇跡のような出会いがあります。やさしくて、うれしくて、ありがたくて、涙が出るような。

昭和から現代にかけての日本の風景(シベリア抑留とか満州制圧とか貸間とか)についても、当時を知る人には興味深いかと思います。琵琶湖周辺の土地勘がある方は特に。
変化激しい時代の流れに注目することも、圧迫された家庭環境からの脱出に注目することもできる本。でも私は単純に「犬好きによる犬好きのための」小説と思って読みました。おすすめです。

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