「蘆屋家の崩壊」(津原康水)を読んで

こんばんは、あずきなこです。

「蘆屋家の崩壊」を読んだ感想です。津原泰水著。
ブラバン、クロニクルアラウンドザクロック、歌うエスカルゴとこの人の本は他にも好きな物がたくさんありますが、それは後日。直近で読んだものから遡ろうと思います。忘れちゃうからね。

「妖しの幻想怪奇」というのはウラスジに書かれている文言。
古くはゲゲゲの鬼太郎、新しくは夏目有人帳あたりを髣髴しますが、妖しといっても猫耳とかケモノとかの要素はないです。執着、憎悪、積み重ねた記憶、そういう湿度粘度の高いものが日常生活をじわじわと呑み込んでいくような世界観。ファンタジーというよりホラーです。
道楽者の祖父に浄瑠璃からライカまで叩き込まれて育った 「三十を過ぎて定職にも就いていない」 猿渡と、「怪奇小説を書くことでその筋では有名な」通称伯爵の2人が、取材で、また語り手である猿渡が友人知人に巻き込まれて遭遇した怪奇についての短編集です。舞台設定はリアルな現実で、銀座や吉祥寺をふらふら歩きながらいつのまにか怪奇の中にいる……というシームレスさが非常に怖くて面白い。

2人が出会って意気投合したきっかけが「無類の豆腐好き、旨い豆腐を食うためならどんな遠出も辞さない」であるため、作中にはたびたび豆腐が登場します。他にも蟹やら蒟蒻やら、とにかく食べ物が美味しそう。私は基本的に食べることが好きなので、食事の描写が丁寧な話はそれだけでお気に入りです。
また津原さんの小説の傾向なのか、この小説でもあらゆるジャンルについて詳細かつマニアックに語られます。主人公の興味のままに浄瑠璃や古事記、趣味としてのカメラなど。道楽者になりたい方必見。派手な車も出てきては壊れます。

そもそも私が調味料の成分表まで読んでしまうぐらい活字大好き!だからだと思いますが、文章が長いともう嬉しい。そういう意味でもこの短編集は最高でした。冒頭3行目からしてこれです。↓

一方おれはと言えば二十代のあいだに数数の不運に見舞われたとはいえ三十路を越えて未だ定職に就けずにいるようなぐうたらであり、ましてや出版業界になど本来無縁の人生であり、彼や彼の仲間から映画のプレミアショウや某氏某受賞パーティ後の主役とは無関係な酒盛りに誘われては場違いを承知でつい物見遊山に出掛け、さまざまな手から受けとる名刺の人名社名にいささか仰天しつつおれの人生も満更ではないぞなどと自嘲含みの笑みを泛べては肩書のない名刺を突き返しているといった具合である。

長い。最高。
全体的なトーンは薄暗く、怪奇の一つ一つもほとんどは本質的な解決に至らないまま終わります。なので人を選ぶ小説ではあると思いますが、淡々としたテンションとじめっとした怖さは好きな人には絶対に合うと思います。おすすめ。

それでは今夜はこのへんで!おやすみなさい、またあした(•ᵕᴗᵕ•)⁾⁾

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