こんばんは、あずきなこです。
「スペードの3」(朝井リョウ)を読みました。
表題作である「スペードの3」の他に「ハートの2」「ダイヤのエース」の計3編が入った連作短編小説でした。3編はそれぞれ主人公が違いますが、現在と過去を行き来しながら3人の人生は交錯していきます。
「スペードの3」の主人公である江崎美千代は、有名歌劇団(恐らくは宝塚)の元準トップスターである【つかさ様】のファンクラブを率いています。学級委員をつとめていた小学生時代から、人を束ね意のままに操作することに長けている美千代の、うまくいっていた全部が思いがけない方向に動き出す話。
みんなが私の指先を追いかける。磁石に吸い付く砂鉄のように。
「ハートの2」の主人公は美千代の小学校の同級生である明元むつ美です。スペードの3内で散々ブスだの気味が悪いだの言われていたむつ美が、変わるために画策する話で、全編中学時代のことが語られます。
自分のため、自分のため、自分のために。
「ダイヤのエース」では、前の2編にも登場していた【つかさ様】を主人公として話が進みます。舞踊学校の本科生として舞台に出ていた頃と、卒業してだんだん仕事が減ってきた今を往復しながら役者として魅力的な背景を探そうとする話。
たとえ、自分自身にどんな物語があったとしても、きっと。
時間軸は「スペードの3」で「今」として扱われている部分が最新となります。全部読み終わったあともう一度頭に戻って読み返したくなる話でした。このとき美千代はこえ思っていて、むつ美はこれをしていて、つかさ様は、と確認しながら読むと二度目のほうが楽しめます。
私は登場人物の中でむつ美が一番好きです。他の2人には明確にコンプレックスを刺激する相手がいたのに対し、むつ美は誰と比べるまでもなく醜い自分に自覚的で、嘘をつく弟にもエゴにまみれた友人にも寛容です。特に好きなのは、小学校を卒業して知っている人のいない中学に進学したむつ美に友達が出来た場面。
どうでもいいことばかりが巡るこんな頭、まるごと、どこかへ投げ出してしまいたい。
ハートの2 より
体育で二人組を作るとき、教室から音楽室へ移動するとき、遠足の班を決めるとき。プールの授業を休みたいとき。あんなにも狭い場所にたくさんの人がいるのに、一体誰のそばにいていいかわからなかったとき。むつ美は、ひとりで浮遊している自分をその場にいる全員にじっと見られているような気持ちだった。だけどもうこれからは、ずっと悩んでいたことに悩まなくていい。それはとても甘くて、爽快な発見だった。
また彼女だけがコンプレックスを克服した未来が描かれます。過酷な環境と壮絶な努力を経た、未来の姿が登場するので安心して読めました。ハッピーエンド向き!
ちなみにタイトルは大貧民(大富豪)から。うまく使えば全てをひっくり返せるスペードの3、弱く見えるけど強いハートの2、その次に強いダイヤのエース。考えさせられるタイトルです。
自分のうちに抱えた嫉妬や羨望や憧れとそれぞれのやり方で折り合いをつける主人公たち。コンプレックスが人一倍多い私には刺さる小説でした。自分を変えたい、でも、という方にこそオススメです。
それでは今夜はこのへんで!おやすみなさい、またあした(•ᵕᴗᵕ•)⁾⁾
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